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脱炭素を誓った経営者がエンジン車にすがる理由

脱炭素を誓った経営者がエンジン車にすがる理由

会議室のスクリーンに映し出された商品計画の修正資料を前に、息苦しい沈黙が落ちる。先月まで「内燃機関への未練は企業の生存を脅かす」と熱弁していたマネジメント層が、今日は何事もなかったかのように既存ガソリン車の延命とハイブリッド車の追加開発を説明している。

この光景を生んでいるのは、方針を決めた個人の節操のなさではない。投じた資本を回収するスピードが、市場の現実と致命的に乖離したことだ。

ドイツの高級車メーカーであるポルシェが、これまで掲げてきた急進的な電気自動車(EV)シフトの戦略を見直し、エンジン車やハイブリッド車を長持ちさせる方針へと舵を切った。組織のスリム化を進め、モデル構成を再構築するという。大々的な脱炭素ビジョンを掲げ、EV専業に近いロードマップを描いていた名門すら、帳簿の数字を前にして引き返さざるを得なくなった。大企業で事業方針の急旋回に直面したことがある人間なら、このニュースの背後にある現場の混乱が痛いほど想像できるはずだ。

利益の源泉を自ら断ち切った帳簿の代償

この転換を「技術的な敗北」や「環境意識の後退」として語るのはピントが外れている。問うべきは、誰のキャッシュフローが痛んでいたかだ。

ポルシェのビジネスモデルは極めて明快だった。洗練された内燃機関と、そこに積み重なる膨大な有償オプションで圧倒的な粗利率を叩き出す。この構造が稼ぎ出す潤沢な日々の現金収入こそが、同社の強みだった。

しかし、急進的なEVシフトは巨額の先行投資を強いる。プラットフォーム(車体の骨格となる基本構造)の新設、バッテリー調達の長期契約、車載ソフトウェアの内製化といった莫大な固定費が損益分岐点を跳ね上げた。損益分岐点とは、売上と費用がちょうど釣り合い、それ以上売れば利益が出る境目の台数のことだ。これが上がれば、車を大量に売り続けなければ赤字になる。

一方で、富裕層向けの高級EV需要は世界的に一巡した。特に最大の利益源だった中国市場での冷え込みと、欧米における充電インフラの不便さは、高価格帯EVの買い替えサイクルを鈍らせた。重たい固定費を回収できないまま在庫が滞留し、営業利益率の防衛ラインを割り込み始めた。得をしたのは補助金と初期のブームに乗った一部の層だけで、メーカーの帳簿には回収の目処が立たない投資残高だけが残った。

なぜ「今」梯子を外す決断を下したのか

EV需要の鈍化そのものは、1年以上前から現場の数字に表れていた。それが今になって組織再編を伴う公の軌道修正として表面化したのは、制度と体力の双方が限界に達したからだ。

第一に、欧州の排出ガス規制「ユーロ7」の基準緩和や、2035年に内燃機関車の新車販売を実質禁止する方針に対する合成燃料(e-fuel)例外規定の議論など、政治的な締め付けが緩んだ。規制という名の外壁が後退したことで、無理をしてまでEV専業化を急ぐ制度的動機が薄れた。

第二に、為替と金利の環境変化が、未回収の投資をこれ以上放置することを許さなくなった。資本コストが跳ね上がった環境では、「将来の市場支配」という抽象的な期待値よりも、「今四半期に手元へ入る現金」の価値が圧倒的に高くなる。稼ぎ頭だったエンジン車を延命し、粗利を即座に回収できる体質へ戻さなければ、次世代投資そのものが継続できなくなる限界点に達した。

日々システムの設計や企画の現場に身を置いていると、現場が「手段」の完璧さに熱中するあまり、「顧客が何にお金を払うか」を見失う構造を嫌というほど目にする。どれほど洗練された電動ユニットを設計しても、車が売れて帳簿に利益が戻らなければ、エンジニアの仕事は単なる持ち出しでしかない。上流の号令で梯子を登らされ、途中で梯子を外された開発現場の疲弊を、私は業界の構造的な宿痾として重く受け止めている。

仮説とそれが崩れる条件

今回の戦略修正について、私は次の2つの仮説を立てている。

第一に、高級車市場における内燃機関への回帰は一時的な足踏みではなく、内燃機関・PHEV・EVを全方位で維持し続ける「恒常的な二重投資フェーズ」への突入を意味する。メーカーは一本化による開発効率化の果実を得られず、開発工数の分散と固定費の高止まりに長期間苦しむことになる。 この見立てが崩れるのは、全固体電池などの革新的バッテリーによってEVの製造原価が内燃機関と同等以下に下がり、かつ2027年までに欧州および北米の高級車市場でEV販売比率が再び前年比30%以上の急成長軌道に戻ったときだ。確度は75%と見ている。

第二に、今回の組織スリム化の本質は、車載ソフトウェアや独自基盤の自前主義の敗北であり、既存の大手メガサプライヤーへの主導権の再委譲である。自社開発の肥大化したエンジニア組織を縮小し、外部調達へ戻す動きが他社にも波及する。 この見立てが崩れるのは、欧州メーカーが自社製ソフトウェアを搭載した新型EV群で営業利益率18%以上を回復させ、内製開発のスケールメリットを立証したときだ。確度は60%と見ている。

この流れが収束する先では、これまで脱炭素の文脈で過小評価されてきたエンジン部品(精密鋳造や高圧燃料系)のサプライヤーのキャッシュフローが再評価される。同時に、プラチナやパラジウムといった排ガス浄化触媒に使われる貴金属の需要も、想定されていた急減シナリオから大きく書き直される。

方針転換の現場で消耗しないための防衛策

組織の「大きな方針」は、経営層の理念ではなく帳簿の都合で簡単に書き換わる。同じような朝令暮改の渦中にいる現場の人間ができる現実的な自衛は、精神論で耐えることではない。

明日からできることは、自分の現在の手元のタスクが「どのキャッシュフローを改善しているか」を1本の線で書き出してみることだ。会社が掲げるスローガンはいったん脇に置く。その開発や業務は、既存製品の粗利を底上げするものか、それとも将来の未確定な需要を見越した先行投資なのかを冷徹に見極める。

もし後者に偏っているなら、梯子が外されたときに備え、その業務を通じて得られるデータや設計思想を「既存製品の改良にも転用できる汎用的な知見」として手元に言語化して残しておくべきだ。組織のビジョンが右から左へ反転しても、帳簿の物理法則に寄り添ったスキルだけは手元に残る。


参考: EV急転換失敗のポルシェ、エンジン車へ回帰組織は小さく車は大きく | 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR288IV0Y6A920C2000000/

本記事は AI の支援を受けて作成し、人が内容を確認したうえで公開しています。投資・経営・法務の助言ではありません。

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